さよならも言わずに

 この作品は、上野顕太郎自身が妻を亡くして、それからしばらくの間の物語である。しばらくの間、と述べたのは、この物語は彼の人生そのものであり、漫画にオチはなく、まだ彼は妻のいない生活に対して、何らかの光明を見出していない、少なくともそれは描かれていないからである。ありきたりな、それでも妻は心の中にいるので大丈夫、なんていう結論は出ないのだ。漫画としては未完成であると言うべきなのだろうが、それ故の気持ちの流れのリアルさ、妻がいた事実を心にとどめておきたいという心意気がたくさん込められている。
 元々病弱であった妻が、見付けた時には呼吸を止めていたところから、物語は動き出す。葬儀や納骨の様子が描かれ、その中で実に淡々と確実に、彼の中での日々の意味が失われてゆく。妻が亡くなった日を隔てての世界が、どんな見え方に変わってしまったかという事。想い出をかき集めてゆくけれども、妻は想い出の中以外に存在しない事。ただそれだけの漫画である。愛おしい人を亡くす事が辛いのは当たり前だが、ここまでその一点のみにフォーカスして、何の奇跡も救いもない、日常に突然訪れた別れを描いた物は、他にないだろうと想う。実に辛い作品である。中でも、公園を一人で歩いている時、その意識の辛さから、誰か自分を何処かから狙撃してくれないだろうか? というシーンがある。その想いを抱く彼の気持ちは、はっきりと示されているが、同じ事を同じように経験した事のない読者にとって、手の届かない程、せつなく苦しいものである。漫画としては未完成かも知れないが、これを描かずにいられなかった、という作者の告白の通り、この作品の存在自体に意義がある。彼の、誰のものでもない、真実の告白だ。

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