嘘つきは紳士のはじまり
主人公のポールという男が、本当に小憎らしくて食えない男で、大変良いキャラクターである。食えないのだがしかし、本当にかっこいい、いい男なのだ。ずるくてひどいのに、その手から逃れられない、大人の男である。作品のタイトル通り、全てのエピソードで小憎らしい嘘をつく。ポールの恋人(?)となるジョナサンも嘘をつくが、やっぱりポールの方が何枚も上手で、粋でこなれた大人の嘘にはかなわない。非常にウィットに富んだ、ドライでドラマチックなボーイズラブである。
ポールは本当に、ボーイズラブ界の中でも稀に見る程のいい男なのだが、甘い言葉は吐けども、本心は明かさないところがとても歯がゆくて、そこがこの作品の絶妙なエッセンスとなっている。ボーイズラブは結局のところ、恋愛漫画であって、誰と誰がくっつくか別れるか、が結論となってしまいがちなところを、上手くすれすれでかわして、最後まで結局、ポールという男の本心は何処にあって、ジョナサンとどういう関係を築くのかは解らない。しかし、そんなドライな関係があってもいいではないか。そのドライさこそ大人の男との恋なのだ、という新しい関係を提示してくれている。男女の恋愛ものであれば、今までもそんな関係を描いた物はあったかも知れないが、ボーイズラブでは珍しい事である。また、男性同士の恋愛であるからこそ、その乾いた感じが活きている。ポールは妻子もあり、大学の教授といういい職に就き、終始余裕がある。自分の生活の方針や恋に対するスタンスも、既に固まってしまっているのだ。
大人の男、という要素は、ボーイズラブには欠かせない程多用されているものだが、ここまで徹底したずるい大人の男は、そういないだろう。ストーリーは勿論だが、キャラクター作りに心底感心した。