YES IT’S ME

 ヤマシタトモコの描く漫画に潜んでいる萌えの記号は、本当に計り知れない破壊力を持っている。シリアスであれ、コミカルな作品であれ、キャラクターの行動や台詞に、本当に上手くこちらに訴えかけてくる要素を入れ込んでくる。この作品に関して言えば、主人公の幼馴染にして上司の江城の一言が、とても良いのである。「おまえがおれのこと好きだから。」という一言だが、これは自分が一番大好きと豪語するナルシストの主人公・東間に言い放った一言なのである。後にこの言葉は江城のずるい告白であり、カマをかけて東間を試す賭けであったと明かされるが、さも当然のように、自分にしか興味のない男に向かって、自信ありげに言い放つ様子がたまらないのだ。自分が一番好きなのは自分で、それ以外に興味などないと自覚している者に対して、その心を揺さぶるに余りある台詞だろう。完璧な筈の世界を構築してしまっている人間の心を、気持ちで突き崩してくる様子が感じられるのだ。
 萌えの記号は、完璧であるところには宿らない。完璧である筈が何処か崩れている、ギャップのあるところに宿るのであって、ヤマシタトモコは、キャラクターの設定で完璧を崩すのではなく、作中で、読者に解る形で、他者からの干渉によって完璧が崩れる様を描くのだ。つまり、相手ありき、人との関係ありきの作品を描く。現在、大分市場が成熟してきて、あれもこれもキャラクターの種別は大体の分類の中に収まってしまい、シチュエーションや外見だけの挿げ替えに陥っているボーイズラブジャンルだが、互いに不可欠な存在であり、互いがいなくば物語の成立があり得ない事を表現する最も有効な手段を、彼女は用いている。それを大いに評価したい作品である。

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